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呼吸のバイオメカニクス 〜呼吸筋と呼吸補助筋の働き〜

  • 執筆者の写真: 佐藤 尚輝
    佐藤 尚輝
  • 8月27日
  • 読了時間: 4分

はじめに


私たちが生きていくうえで欠かせない「呼吸」。一日に約 2万回 も繰り返されるこの動作は、一見すると自然で単純なものに思えます。


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しかし実際には、肺が勝手に膨らんだりしぼんだりしているわけではなく、周囲の筋肉が協力して胸郭や横隔膜を動かすことで呼吸が成立しています。つまり呼吸は「全身の力学的な運動」であり、これを研究・説明する分野が 呼吸のバイオメカニクス です。


今回は、呼吸のバイオメカニクスを理解する上で欠かせない 呼吸筋 と 呼吸補助筋 の働きについて、一般の方にもわかりやすく解説します。


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○呼吸のバイオメカニクスとは?


「バイオメカニクス」とは生体における力学的な仕組みを意味します。呼吸においては、胸郭・横隔膜・肺の関係性を力学的に説明するものです。

・吸気(息を吸う)

横隔膜が収縮して下がり、肋骨が外に広がる → 胸腔(肺の入っている空間)の容積が大きくなり、肺が膨らんで空気が流れ込む。

・呼気(息を吐く)

横隔膜がゆるみ元の位置に戻り、肋骨が下がる → 胸腔が小さくなり、肺がしぼんで空気が外に押し出される。


このように呼吸は「圧力と容積の変化」によって成り立ち、そこには多くの筋肉の連携が必要となります。


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主な呼吸筋(呼吸の中心的な筋肉)


1. 横隔膜

呼吸の主役ともいえる筋肉で、ドーム型をしており胸腔と腹腔を隔てています。吸気時に収縮して下に下がることで、胸腔を広げて肺を膨らませます。

安静時呼吸の約70%を担っており、横隔膜がしっかり働くことで「深く安定した呼吸」が可能になります。


2. 外肋間筋

肋骨と肋骨の間にある筋肉で、吸気時に肋骨を外上方へ持ち上げます。これにより胸郭全体が拡張し、横隔膜の働きをサポートします。


3. 内肋間筋

外肋間筋とは逆の働きを持ち、主に呼気に関わります。強く息を吐き出すときに肋骨を下げ、胸郭を小さくして肺から空気を押し出します。


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呼吸補助筋(深い呼吸や運動時に働く筋肉)


安静時には横隔膜と肋間筋で十分ですが、運動時や呼吸が苦しいときには「呼吸補助筋」が動員されます。これらの筋肉は普段は姿勢保持や腕・首の運動を担っていますが、必要に応じて呼吸動作を助けます。


首の筋肉

・胸鎖乳突筋

首の前側にある筋肉で、胸骨や鎖骨から耳の後ろまで伸びています。吸気時に胸郭を引き上げる働きを持ちます。

・斜角筋

首の横にある筋肉で、第一・第二肋骨を引き上げ、胸郭の拡張をサポートします。


胸の筋肉

・大胸筋

腕を動かす筋肉ですが、腕を固定した状態では肋骨を持ち上げる役割を果たします。

・小胸筋

肩甲骨と肋骨をつなぐ筋肉で、吸気時に胸郭を広げるのを助けます。


お腹の筋肉

・腹直筋・腹斜筋・腹横筋

これらの腹筋群は特に呼気において活躍します。腹圧を高め、横隔膜を押し上げることで強制的に息を吐き出すサポートをします。咳や発声、排便時にも関与しています。


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○呼吸筋を意識するメリット


呼吸筋や補助筋を正しく使えるようになると、体にさまざまな良い影響があります。

・姿勢改善

横隔膜や肋間筋の働きは、猫背や反り腰といった不良姿勢の改善にもつながります。胸郭が柔軟に動くことで、自然と背筋が伸びやすくなります。

・スポーツパフォーマンス向上

効率的に酸素を取り込めるようになり、持久力や集中力が高まります。特にランニングや水泳などの有酸素運動では大きな差が生まれます。

・リラックス効果・自律神経の安定

深い呼吸は副交感神経を優位にし、心拍数を落ち着かせます。ストレスが和らぎ、睡眠の質改善にもつながります。


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○まとめ


呼吸は無意識に行われていますが、その裏では 横隔膜・肋間筋・補助筋 が連携して働いています。

普段から呼吸筋を意識し、深い呼吸を取り入れることで、姿勢の改善・健康維持・スポーツパフォーマンス向上など、多くのメリットを得ることができます。


次に深呼吸するときには、ぜひ「今、自分の横隔膜や肋間筋がどう動いているのか」をイメージしてみてください。それだけでも呼吸の質が変わり、体と心が軽くなる感覚を得られるはずです。


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